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by morristokenji

持論時論 第22回 「建設バブルと被災地」が訴える真実

 7月25日夜のNHKスペシャル「震災復興正念場の夏:建設バブルと被災地」は、震災復興の現状の問題点を鋭く生々しく提起しました。去る3月9日夜、同じNHKのスペシャル番組が、「どう使われる3.3兆円~検証 復興計画」のタイトルで放送しましたが、2つの番組を並べて、2つをつなぎ合わせると、今や行き詰ってしまった震災復興計画の真実の姿が浮かび上がってくるように思います。第18回の本稿で「災後3年、不都合な真実」を書きましたので、今回は2つの番組を連携させて、さらに震災復興の現状を見ることにしましょう。

 先ず今回の番組ですが、被災地の復興の現状として、災害公営住宅の建設の大幅な遅れを取り上げます。すでに災後3年半が近づいているのに、住宅の建設は計画の8.03%しか進んでいない。その遅れにより、いまなお仮設住宅に9万人が避難生活を送り、4度目の夏を迎えて心身ともに疲れ果て、異常な病的状態に追い込まれている。もともと復興計画の計画期間は5年間で、残りは1年半しかない。復興予算の措置も、計画期間に合わせているので、このままでは「みなし仮設」の住人を合わせれば、おそらく10万人以上の「震災難民」を生み出すことになり、新たな難民対策を準備しなければならない。そのための予算措置が必要になるでしょう。

 NHKの番組のタイトルは「復興正念場の夏」としていますが、これから正念場を迎えるどころか、もうとっくに復興計画は破綻している。これから1年半で、残りの92%をこなすことなど到底不可能でしょう。それほど深刻な建設バブルの矛盾と混乱が、すでに災害公営住宅の建設現場に襲い掛かっている。その結果、手の施しようが無いほどの惨状が番組で報道されています。「建設バブル」で何が起こっているのか?

 東日本大震災による復旧・復興需要に加えて、デフレ脱却の名のもとに、アベノミックスによる財政・金融による大量の資金のばら撒きが行われた。さらに成長戦略に結びついた公共事業の拡大、それに熾烈な誘致合戦の末に、東京オリンピックの建設需要が重なった。映像の画面には、被災地で読む新聞の見出しに「アベノミックス正念場」の活字が語りかけている。手当たり次第に乱射される成長戦略により増幅される建設バブルの荒波が、「巨大津波」に浚われた被災地に再び襲い掛かり、もう「東北の津波なんか忘れ去られてしまった」被災者の絶望的な呻きが聞こえます。

 アベノミクスによる「建設バブル」は、それ以前から構造的な慢性不足に陥っていた建設技能者の求人倍率を、一挙に大幅に引き上げた。生コンの処理に結びついた型枠工、鉄筋工、とび職など、すでに6倍超の求人であり、いくら労務単価の引き上げを図っても人が集まらない。労務単価は、従前の2倍から3倍にまで跳ね上がり、それでも集まらずに建設現場では20年前の建設バブル以上の激しい職人の争奪戦が始まっている。職人の奪い合い、叩き合い、引き抜き会いの惨状が繰り広げられている。こうした建設職人・技能者の絶対的不足では、当面の解決策は見当たらない。バブル崩壊を待つしかないのか?
 
 番組の焦点は、災害公営住宅の建設の遅れに置かれています。民主党の野田政権の19兆円に、さらに6兆円を上乗せして、安部政権の復興予算が組まれた。期間は5年、残された期間は1年半、絶望的な人材確保の努力が続けられている。宮城県を中心に、番組では公営住宅の入札の不調を紹介していました。冷酷な市場原理・競争原理に翻弄されながら、予定価格の引き上げが繰り返し続けられる。しかし、引き上げた予定価格でも、業者は入札できない。入札ゼロの不調が続く。不調率が宮城25%、岩手、福島も20%を越えている。「不調対策が重要」なことは解っていても、打つ手は限られている。無理矢理労務単価を引き上げ、指名競争入札で業者に声をかけても、予定価格を大幅に上回る応札、それも1社のみ、いぜん入札不調が続く。

 仮設住宅の現状も報道されました。とくに宮城県は、プレハブ業界の圧力もあったのでしょうが、プレハブの仮設が大部分です。すでにカビが生え、床が腐って、とてもこのまま住み続けられない。原則2年の使用限度を1年延ばしに延長しているが、災害公営住宅の建設が遅れれば、これまた仮設の全面的な建て替えも必要になる。いつもは前向きで明るく、笑顔を絶やすことのない宮城県知事、今日ばかりは苦渋に満ちた顔で、東京で進む建設現場に林立するクレーンを見やりながら、5年の復興期間の延長と復興予算の増額の陳情に行く姿が、今回の番組の最後のシーンでした。
 
 以上、デッドロッククに乗り上げたかに見える災害公営住宅の建設に象徴される災害復興計画ですが、地方行政の枠組みでは、当面の打開策として復興期間の延長、復興予算枠の増額しかないでしょう。宮城県知事も復興庁に陳情しています。しかし、集中復興期間は5年間で集中的に復興を実現する意味であり、集中期間そのものの延長は考えていないでしょう。東京オリンピックもあり、その他の災害対策もある。それに期間を延長しても、災害公営住宅の遅れの原因となっている職人・技能者の不足などの構造的要因は解決されない。それどころか、ますます労務費のアップや職人の引き抜きが激化し、公営住宅の建設が遅れる。そればかりか、公営住宅への入居を諦めて、すでに自主的に住宅建設に転換した、その建設まで遅らせてしまう。そんな事例も、番組では紹介されました。

 ここで前回のNHK番組「どう使われる3.3兆円~検証 復興計画」との関連が浮かび上がります。詳細は繰り返しませんが、宮城・岩手の被災町村の災害公営住宅建設について、NHKによる関係町村の独自アンケート調査が紹介されました。「土地を手放して住まない」「土地は手放さないが、住まない」が多数にのぼり、「予定通り居住する」は半数にも満たない。計画が完全に空洞化して、このままでは3.3兆円の国費、税金の無駄になる。計画を抱えたまま立ち往生の石巻の現状、すでに人口が3割も減少し、計画を縮小して仮設からの移住を進める女川町の被災現場の実情が、生々しくポートされていました。
 
 2つのNHKスペシャル番組をつなぎ、ここで組み合わせると、復興計画と復興予算の要になっている災害公営住宅の建設は、一方では被災者である当事者が入居を諦め、期待せず、見放している計画の空洞化が進んでいる。この傾向は、今後ますます進むでしょうから、計画は破綻に追い込まれざるを得ない。他方では、公営住宅の建設それ自体がアベノミクスなど、予想外の建設バブルで建設・職人技能者の不足、労務単価引き上げ、引き抜き争奪戦の激化で、計画が立ち往生している。こうした復興計画の現状について、ただ復興計画期間の延長や復興予算の増額を続ければいいのか?こうした問題が提起されたと思います。

 石巻、および女川、2つの被災地を訪問しましたが、大きなビルが倒れたまま、夏草が生い茂り打ち捨てられた土蔵、そして壊滅的な被害で静まり返る商店街の惨状など、災害公営住宅への入居の夢を捨て、住み慣れた石巻や女川への思いも捨てて、寂しく立ち去らざるを得ない被災者の心情が伝わってきます。それにつけても、アベノミクスの建設バブルによって翻弄されたまま、デッドロックに乗り上げた復興計画を、いま抜本的に見直すべきではないのか?その視点は、国や地方行政の上からの主導ではない。被災当事者の主体的な復興計画づくりでしょう。石巻の大学で開かれたワーカーズコープ「東北復興本部」主催の集会での発言を最後に紹介しておきます。

 「被災地は非日常の派手なイベントはもう要らない。日常を取り戻すための地に足のついた支援が欲しいのだ!」

 
 
 
by morristokenji | 2014-08-15 15:32