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森のミュージアムの最新情報<研究ノート>を分離


by morristokenji

商品と貨幣

 モリスは第15章「科学的社会主義―カール・マルクス」では、すでに解説したようにマルクスについて、簡単な履歴とエンゲルスとの出会い、それに『資本論』までの主要な著作を挙げていた。とくに『資本論』の基礎になったものとして、『経済学批判』をあげているのだが、この『批判』には立ち入ることなく、いきなり第一篇「商品と貨幣」の解説に入っている。つまり、『批判』が『資本論』に基礎になったと言いながら、両者の関連には一切何も触れることなしに、「商品と貨幣」を説明するのである。
 しかし、『批判』と『資本論』を比較した時、『批判』には冒頭に有名な「序言」が付いていて、そこではマルクスが自らの経済学の研究の跡を振り返りつつ、唯物史観の定式化を試みていた。つまり、イデオロギー的仮説だった唯物史観を前提し、その枠組みの内部に『批判』を位置づけ、そこで経済学の理論を展開する方法を提示していたのだった。
 さらに唯物史観の枠組みの前提から、「ブルジョア経済の体制」の解明のプラン、いわゆる「経済学批判体系プラン」の一つをを提示していた。すなわち「資本、土地所有、賃労働、国家、外国貿易、世界市場」の6部門編成に他ならない。だから『批判』は、序言の唯物史観の公式を前提に置き、その上で「第1部 資本について 第1篇資本一般 第一章商品」という編別構成のもとで、商品から貨幣が説かれることになったわけだ。
 『資本論』にも無論「序文」がある。そこでは唯物史観ではなく、純粋資本主義の抽象の意義が力説され、さらに第2版には「後書」もつけられた。『資本論』には、『批判』の唯物史観の枠組みが消滅し、6部門の編別構成もなくなっている。そして、「第1部 資本の生産過程 第1篇 商品と貨幣」として、商品から貨幣が説かれているのである。モリスは『批判』が『資本論』の基礎だと言っただけで、むしろ『資本論』の商品、貨幣の説明に入っている点が、まず注目されるべきだろう。
  『資本論』でマルクスは、冒頭の商品論において、2つの商品の交換における等置から、商品を生産するのに必要な抽象的人間労働による価値規定を行っている。有名な労働価値説の論証だが、この論証には早くから批判が集中していた。価値論論争である。ここでは論争に立ち入らないが、モリスもこの価値論の論証の理解に苦しんだようだが、彼は価値規定については、ごく簡単に次のように説明する。
 「若い学生諸君は、マルクスが自ら価値という言葉を、次のような意味で使っている点に注意すべきだ。簡単にいえば、対象化された平均的な人間労働量である。使用価値というのは文字どうりであり、交換価値は、交換される他のあらゆる商品との商品の価値関係である。」
 つまり、2商品の交換による等置や労働価値説の論証のようなものは省略され、ましてや単純な商品生産者による私的所有の基礎付けなど、一切考慮されていない。唯物史観の基礎付けとは無縁な価値規定である。むしろ、交換価値を交換されるすべての商品との価値関係を重視し、価値形態としては貨幣形態の完成形態をいきなり提起したのだ。
 『資本論』からの引用も、「直接的かつ全般的交換可能性、言い換えると一般的なな等価形態であって、それは現在の社会的慣習は、生身の金で具体化される。」抽象的人間労働による価値規定を前提しながら、「全般的交換可能性」としての価値を表現する貨幣形態を価値形態としているのだ。だから、第2章「交換過程」も、交換における価値の積極性を強調している。
by morristokenji | 2008-08-16 21:22