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by morristokenji

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 「よもや来るまいと思っていた狼が、本当に来てしまった」、米大統領選でトランプ大統領誕生についての報道です。これから「やってくる大きなリスクについて」米国をはじめ、日本の既得権支配層(エスタブリッシュメント)達の恐怖に満ちた発言です。また、トランプ対クリントンの泥仕合で増幅してしまった米国内の亀裂で、特にシアトルなど産軍複合体制の強い都市では、クリントン派の抗議デモが発生している。
 しかし、早々とオバマ現大統領の申し出で、トランプとの会談が行われ、日本から安倍総理も「トランプ詣」に出かける。それどころか、開票と同時に進んだ日本の株式市場の過剰反応で一時的暴落はあったが、翌日のニューヨーク市場など大幅な株価上昇、円高=ドル安どころか、真逆の円安=ドル高。アベノミクスでは実現できない円安=ドル高・株高が、何のことはないトランプ・ショックが実現する皮肉な市場の反応でした。
 こんな「トランプ革命」「トランプ・ショック」を予想していたわけではありませんが、当「持論時論」第51回「再論:日本資本主義の終わりは始まったのか?」の冒頭で「お断り」したように、今回の米大統領選など、大きな動きを予想して、早めにアップして貰いました。そこで書いた内容を補足する意味で、今度の「トランプ・ショツク」について、それを戦後体制の転換として位置付けてみましょう。ソ連崩壊で戦後の冷戦体制が終焉しましたが、ここで大きくアメリカ一極のグローバル化が崩れ、再編の動きが進んできたように思います。決して予想外の出来事ではない、再編に向けての大きな転換期ではないか?

 確かに暴言と放言、人格攻撃とスキャンダルの暴露など、見るに堪えない、また聞くにも堪えない泥仕合の大統領選でした。勝敗は別にして、政策論争はそっち除けの選挙戦だけで、超大国アメリカの世界支配の終わりを、内外に強く印象付けてしまったのではないか。また、それだけアメリカ国内の格差や対立、分裂、そして亀裂の深さが大きい。合衆国、移民国家、分断社会、その内部亀裂を近代国家の体制的枠組みの内部で修復できるのか?そんな課題が提起されたように思います。
 しかし、そうした政策論争不在の凄惨な選挙戦の底流に、戦後体制の転換に伴う政治的苦悩の集約を見ることができるように思います。すでに指摘しましたが、戦後世界の冷戦体制は、米ソを頂点とした東西二つの世界の対立だった。東のソ連型社会主義vs西の資本主義、ソ連型社会主義はプロレタリア独裁、西の資本主義は「自由と民主主義」、それぞれの価値観で組織化され、統合されていた。しかも、二つの世界が第2次大戦の「熱戦」ではないが、原子力の核開発を軸に「冷戦」を繰り広げる。そんな冷戦体制の時代が、ほぼ半世紀の長期にわたって持続するという、まことに奇妙な時代が続いた。そんな奇妙な時代の中で、日本経済の高度成長が実現し、GNP大国の地位を獲得したことを見逃してはなりません。
 
 1991年、核開発競争に破れたソ連が崩壊し、ここで冷戦型の戦後体制は一先ずピリオドを打った。この時点では、まだ中国をはじめ、それまで「第三世界」と呼ばれていた発展途上の国や地域は、世界経済や国際関係に大きな影響力を持たなかった。そのためポスト冷戦は、アメリカ一極の超大国による覇権支配の体制となり、折からのICT革命によるブームもあり、アメリカ主導の世界秩序が形成されたのです。また、冷戦下の価値観だった「自由と民主主義」が、新たな世界支配の価値観となり、世界経済は「新自由主義」のもとで国際金融資本の「マネーワールド」を形成し、アメリカが「世界の警察官」「世界の保安官」として、世界戦略が推進されることになったのです。とくに米の共和党ブッシュ政権のもとで、トロツキスト崩れと言われる「ネオコン」グループによって、「グローバリズム」「グローバル資本主義」が唱道されることになった。
 今回の大統領選で、トランプ候補が口汚く暴言、放言した、その批判の根底にあるのは、他ならぬ「ネオコン」が唱道してきた「グローバリズム」批判です。日本では、わざわざトランプ当選に当てつけて強行採決したTPPですが、それにに対しては「大統領就任の日にでも撤退する」と豪語する。また、「世界の保安官にはならない」、そればかりか日本などの駐留米軍も撤退する、要するに「グローバリズム」に対するアメリカ内部からの告発であり、内部批判だと思います。「トランプ革命」は、ポスト冷戦後の「グローバリズム」からの転換であり,アメリカ一極覇権主義の終わりである。トランプの「もう一度偉大なアメリカを」の怒号は、ポスト冷戦の現実を無視して続いてきた覇権国家からの撤退宣言であり、アメリカ一国のモンロー主義への回帰宣言でしょう。その意味で、ポスト冷戦後の新たな国際関係への転換点を迎えたことになります。

 アメリカの一極覇権の「グローバリズム」からの脱却という点では、すでに述べましたが「ネオコン」の影響力の強かったブッシュ父子の共和党政権から、オバマの民主党政権への転換があった。ブッシュ政権ではイラク戦争の失敗など中東支配からの撤退を余儀なくされていたし、経済的には2008年のリーマンショックによる世界金融恐慌の打撃も大きかった。オバマの「変革<Change! Yes,we can>」の大統領就任宣言も、ネオコンなどの産軍複合体制からの脱却を目指していた。2013年9月の対シリア内戦への軍事不介入の際、「もはやアメリカが世界の警察官ではない」と宣言し、中東からの米軍の撤退をはじめ、広く世界を主導する立場を公然と否定し、「リバランス」政策に転換した。また、核廃絶を訴えてノーベル平和賞を貰った。しかし、この「リバランス」の中身が曖昧であり、中国の急速な台頭もあって、単なる世界支配の戦線縮小で「アジア太平洋地域」へのセットバックに止まってしまった。それだけ米を中心とした産軍複合体制の既得権力が強かったとも言えるでしょう。
 長期にわたる戦後体制の続く中で、産軍複合体制をバックに、広く既得権支配層(エスタブリッシュメント)が、政治も経済ばかりか、マスコミまでも支配している。オバマよりも、体制寄りのヒラリー・クリントン候補の立ち位置の曖昧さが、選挙戦においても目立ったわけです。さらにヨーロッパや日本もそうですが、米の民主vs共和の対立の構図も完全に崩れています。共和党の異端分子のトランプが、既存の枠組みを超えて、大統領の座を射止めたのです。対立軸は、もはや保守vs革新、そして共和vs民主では無くなっている。既得権支配層vs非権益・低中所得層の対立だし、その背後には移民国家らしく白人層vs移民層、しかも移民も黒人とヒスパニック系、アジア系に分かれ、女性層の投票も白人と移民との差が目立ったようです。EUとは違った形ではあるが、移民国家の亀裂が大きく浮かび上がっている。さらに地域的対立も大きく、大都市と中小都市・農村との対立が、特に北東ー中西部の白人労働者と大都市移民との分裂となって現れているようです。

 ポスト冷戦により、米一極支配の構造が続きましたが、「グローバル資本主義」の破綻は、単に所得や資産の大幅な格差を産んだだけではない。一握りの巨額な富裕層と99%の貧困層の格差といった対立図式には収まり切らない亀裂が走っている。巨大な移民国家の中の白人と移民の対立であり、さらに金融国際都市に流れ込んだ移民と白人産業労働者や農民層の対立です。こうした複雑な活断層を抱え込みながら、トランプのアメリカは巨大な覇権国家から、北米の「一つの大国」の座に降りる選択をした。戦後体制の国際関係は、東西対立の冷戦時代から、グローバリズムの過渡期を経て、新たな多極化へ移行することになる。そのための転換点が、今度の米大統領選であり、トランプ政権の誕生です。罵詈雑言、誹謗中傷の選挙戦の背後に進む、戦後体制の新たな国際関係の再編の意義を見逃すべきではないでしょう。
 ただ、新たな国際関係の行方については、暴言・放言が目立っただけに、トランプ政権の真意が測りかねています。しかし、依然として日米安保の体制にしがみ付こうとする日本、大量の移民・難民を抱え込み統合の維持に苦悩するEU、そしてEU離脱の英国、さらに中・露とともに、ソ連崩壊時点とは大きく変貌した新興諸国の動向です。とくに米に次ぐ世界第2のGDP大国の中国の動向でしょう。嫌中・反中イデオロギーで盲目になった日本を尻目に、ASEANなど東アジア各国は、中国とともに多極化の担い手を進めようとしている。米国の植民地だったフィリピン大統領の発言にみられる通りです。米中関係を中心に、多極化する新たな国際関係の秩序形成に成功するかどうか?日本資本主義の終わりのシナリオも、新たなページを準備しなければならないでしょう。 
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by morristokenji | 2016-11-11 12:49