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森のミュージアムの最新情報<研究ノート>を分離


by morristokenji

(2)サブプライムローンの背後にあるもの

 9・15リーマン・ショックによる金融市場の崩落は、低所得者向けの住宅ローン、サブプライムローンの不良債権化、そのデリバティブにによる金融商品化による、といわれている。崩落原因の総てではないにせよ、その大きな原因として、サブプライムローンなど、金融商品の破綻があったことは否定できない。しかし、サブプライムローなど、投機的な金融の異常な膨張には、異常な過剰資金の増大があることを、まず挙げなければならないと思う。
 この過剰な資金は、日本を含む欧米先進諸国、さらに中国など貯蓄率の高い新興国において累積され、それが国際金融市場を席倦し、グローバルに運用されてきた。しかも、この累積されている過剰資金は、量的に額が巨額な規模に達しているだけではない。資金の性格とその運用において、極めて投機的に運用されるという、質的な特徴を持っている。要するに、質量ともに異常な過剰資金が累積され、グローバルなレベルで投機的に運用されていたのだ。
 個別の企業や家計にとって、過剰な遊休資金は絶えず生ずる。その資金が金融機関に預金として集中し、貸し付けられ投資される。金融業務は、こうした一時的な遊休資金の社会的融通により成り立つのであり、景気の循環も金融の機能によって媒介されるのだ。その意味では、景気の変動もまた、社会的な資金の循環によるものであり、単なる生産や消費の実体経済の変化だけではない。貨幣・金融の現象であり、だからすでに述べた通り、恐慌もすぐれて貨幣・金融的現象なのだ。
 このような資金循環が、円滑に機能していれば、一時的にはともかく、長期かつ大量に資金が過剰化する筈はない。ところが70年代から徐々に、80年代からは恒常的ともいえる形で、国際的な資金の過剰化が表面化することになった。金融の国際化、そして金融ビッグバンのような金融改革も、過剰な資金の累積が前提になっているのだ。なぜ、この時点で国際的な資金過剰が表面化たのか。
 1)日本を含む先進資本主義国については、ポスト工業化と呼ばれる、産業構造の転換が重要であろう。19世紀に始まる先進国の工業化は、20世紀を迎え、重化学工業化による高度工業化社会として発展した。イギリスが主導するパックス・ブリタニカから、自動車など耐久消費財を中心とするパックス・アメリカーナへの発展だった。この高度工業化は、第一次大戦から第二次大戦、さらに東西冷戦時代へと、軍需産業と結びつきながら工業化時代の世界的拡大となった。
 こうした軍需産業と結びついた工業化社会の発展が、19世紀末から20世紀に向けて、世界的規模で国家主義の台頭をもたらした。ロシア革命のソ連の国家社会主義の成立、対抗する資本主義の側の国家資本主義化、いわゆる「国家独占資本主義」の発展に他ならない。こうした産業構造の高度化が、産業面でも生活面でも、大きな構造的変化をもたらした。産業面では、産業国家の下での金融資本の発展、生活面では「クルマ社会」など、生活の高度化「消費革命」である。これらの点については、ここでは立ち入らない。
 このような国家主義と結びついた産業の高度化は、様々な技術革新をもたらし、金融資本の集積や生活の利便性を著しく向上させた。例えば、長期化した冷戦体制の下で、原子力産業やIT革命、大量消費や情報化など、技術革新によって産業は活性化し、生活もまた高度化した。しかし、こうした高度工業化の発展も、産業的には地球温暖化など環境破壊の深刻化、また生活面でも少子高齢化など、国家主義に基づく体制的組織統合の限界が表面化してきた。
 とくに第3次産業革命と呼ばれたIT革命による情報化の進展は、先進諸国を中心に「知識社会」とよばれるポスト工業化への産業構造の転換をもたらしている。この産業構造の転換は、①第2次産業中心の拡大発展から、第3次産業中心の発展へ転換。さらに、②第3次産業の内部では、医療福祉、教育、文化、スポーツなど、知的サービス分野のウェートが上昇する構造的変化が著しい。
 さらに③、このような構造転換は、高度工業化の発展に見られたような、ハードな設備投資の拡大ではなく、ソフトな人材確保のための投資に転換を迫る事になった。公的レベルでも、民間でも、従来型の設備投資のウェートは減少せざるをえなくなった。
 例えば、戦後日本の景気拡大を代表するイザナギ景気下では、経済成長率(名目)年率18.4%、個人消費9.6%、設備投資24.9%、輸出18.3%の大幅な伸びだった。それに対し、最近の02年2月からの景気拡大では、成長率0.8%、個人消費1.5%、設備投資4.4%、輸出11.4%である。著しい伸び率の低下なのだ。
 つまり、工業化社会の高成長・高設備投資から、ポスト工業化は低成長・低投資への劇的な転換を見せている。こうした構造転換からみれば、輸出による外需主導型から、個人消費や設備投資に基づく内需主導型への転換などを期待しても、初めから無理な話であろう。この構造転換を無視して、内需拡大を無理に図ろうとして財政を拡大しても、バラマキの財政赤字を増大させるだけなのだ。
 要するに、歴史的にみて工業化の近代社会は、高成長・高投資の時代であり、貯蓄=投資の資金循環もそれなりに円滑に機能していた。しかし、ポスト工業化が進み、高成長・高投資から、低成長・低投資へ転換すれば、その限りでは企業や家計の貯蓄は、多かれ少なかれ資金として過剰化する。ポスト工業化による資金の過剰化であり、こうした構造的変化が、金融システムの転換を迫る事になった。とくに国際金融のレベルでシステム・チェンジが進み、金融ビッグバンの金融の自由化となった。
 2)中国を初めとする新興国の事情について触れると、第2次世界大戦の終了まで、アジア・アフリカなど、多くの新興国は、欧米先進諸国の植民地だった。とくに国家主義の下、金融資本の帝国主義的発展は、植民地支配を梃子として発展した。そのため植民地は、もっぱら原料資源の供給を担わされ、金融資本による収奪に苦しんできた。
 第2次大戦後、中国など植民地から解放されたが、米国中心の新植民地支配も続き、70年代のベトナム解放など、ようやく植民地主義が終わりを迎えた。アジアのNICsにはじまり、ASEAN諸国、さらに中国、そして最近のBRICsなど、新興国・地域の工業化が著しい。
 この工業化も、先進資本主義国と同様、高成長・高投資のパターンでの発展を進めている。この高成長・高投資は、中国の発展にも見られるとうり、改革開放路線に基づき、外資の積極的導入・投資を利用して行われている。その限りでは、先進諸国のポスト工業化に基づく、慢性的な過剰資金の導入による投資であり、先進資本主義国と新興国・地域との資金循環が形成されている。それが新興国の開発と成長の支えになっているのだ。
 先進国の過剰資金と新興国・地域の資金循環は、国際金融の重要な流れになっているが、例えば対中・対印の株式投資などに見られるように、必ずしも安定的ではない。基盤整備など、原始的蓄積の段階での先行型投資の面が強い。こうした不安定要素が、先進国の過剰資金に影響するし、投資も投機化するリスクを秘めている。国際金融の不安定性となっている。
 さらに重要な点だが、とくに中国など、アジアの新興国・地域の場合、かっての日本や韓国がそうであったが、アジアの地域特有な高貯蓄体質を持っている。一方で、急速な工業化に向けての投資のための資金需要と同時に、高貯蓄体質に基づいた資金形成も強まっているのだ。こうした資金形成が、工業化の進展と共に、益々国際的な資金の過剰化を促進する事になる。
 いずれにせよポスト工業化による先進国の過剰資金の累積、それに新興国・地域での高貯蓄体質からの資金過剰が加わり、国際的に資金過剰が堆積しているし、過剰資金の慢性化が進んでいるのだ。しかも、この過剰な資金は、グローバルなレベルで堆積して巨額に膨れ上がり、かつ不安定な形で投機化せざるをえなくなっていたといえる。
 そして、この不安定で投機的な資金の累積が、いわゆるファンド・マネーとなって、投機的に運用されることになる。運用先としては、米のサブプライム・ローンなど、新たに開発された金融商品、デエリバティヴに向けられる事になった。次にサブプライム・ローンを中心に、投機的な資金運用のメカニズムを検討しよう。
by morristokenji | 2009-07-09 15:13